車掌
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車掌(しゃしょう)とは、列車・バス・ケーブルカーなど、交通機関における乗務員の呼称のひとつ。
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歴史
日本の鉄道の初期には実際に列車長と呼んでいたが、「社長」と混同する恐れがあったので「車掌」と呼ぶことになったと言われている。
1980年代中ごろまでは、貨物列車にも車掌が乗務し、列車分離などの事故時に列車防護措置を行っていた。しかし、車両の信頼性向上・列車防護無線装置や鉄道無線装置やデッドマン装置の整備により運転士だけの乗務となった。
1960年代より前は、バスや路面電車にも車掌が乗務して乗車券の販売や検札・安全確認などを行った。
業務
- 旅客用ドアの開閉(ホーム、停留所の安全確認、監視を含む)。
- 事故、故障、その他非常事態などの理由により緊急停止した場合における防護。鉄道では特に列車防護という。
- 駅(主に運転にかかわる駅長のいない駅やバス)にて出発信号の確認と出発合図を行う。
- 旅客に対する案内(車内放送)。
- 不測の事態で駅(停留所)間で停車し、駅に到着できない場合や車両火災の場合に旅客の避難誘導を支援する。
- 車内改札(特に、地方路線に多い)。
- 車内設備・旅客の監視。
鉄道における車掌の役割の変化
- 乗客専務車掌(私鉄など一部は旅客専務車掌)の登場
- 旅客の増加、列車のスピードアップ、列車の長編成化、旅客のサービス向上へのニーズ向上などに伴い、扉扱いなどの運転業務を行う「車掌」(車掌長)の運転業務に負担となるようになったため、その名のとおり乗客への直接的なサービスを第一とした乗務員の役職として、設けられたものである。
- 車掌の担当する仕事は、旅客への案内、切符の販売、乗車変更の取扱(連絡乗車券の発売や、連絡乗車券への変更も含む)営業業務としての、プリペイド式乗車カード(オレンジカード、パスネットなど)の発売などである。
- 現在では、パスネットやスルッとKANSAI、SuicaやICOCAなどの普及によって車内精算の必要性がほとんど無くなり、多くの会社で廃止されているが、一部のJRでは運転業務も行う(本体側の)車掌とは別に、子会社の社員が検札、発券業務等のみを行う乗客専務車掌として乗務する場合がある。
- ワンマン列車の登場
- 設備の近代化により、車掌の仕事の一部を運転士が担当し、車掌が乗務しない列車が増えている。
- 一部の鉄道路線では、運転上は「ワンマン運転」扱いだが、多客時の運賃収受対応、車内精算のために(旅客専務または特別改札)車掌を乗務させていることもある。また、不正乗車防止のための特別改札車掌が乗務する例もある。この場合、案内放送やドア扱いは運転士が行う。また、ツーマン運転ができる列車では、非常に混雑した場合、運転扱いをする車掌が臨時乗務し、ツーマン運転とすることもある。
- ディズニーリゾートラインでは、運転士が乗務せず、車掌のみが乗務する特殊なワンマン運転である。
バスにおける車掌の役割の変化
- バスガイド
- 観光バス、貸切バスなど、路線バスのような運賃収受などの業務がなく、旅客への案内、とりわけ観光案内と、発車合図。車両後退時の誘導を専ら行う。女性の憧れの職業であったが、バックカメラを備えたバス車両では、車掌などの誘導なしに後退(バック)することが認められるようになったことを契機に、多くの車両で装着が進み、専ら観光案内や旅客へのサービスが主体となった。そのため、輸送を主体とする貸切バスでは、ガイドが乗務しない例が多く、運転士が簡単な旅客案内を代行する。現在ははとバスなど、観光バス事業を主体とする企業を除くと、非正社員で雇用(契約社員、派遣社員、アルバイト、パートタイマーなど)されるバスガイドが多数を占める。
- バスのワンマン運転化
- 鉄道よりも先に、車掌が乗務しないワンマンバスが登場した。現在、日本国内のほとんどの路線バスがワンマン、すなわち車掌なしで運転されている。本来車掌が行う業務は、各種機器により合理化された。
- 停留所付近での安全確認 → 多数のバックミラー
- 乗車券の販売 → 整理券と運賃表示器により、乗車券の購入を必要とせず、降車時に旅客が運賃を直接運賃箱に現金を投入する。ちょうどの金額を所持しない旅客には運賃箱備え付けの両替機で両替を行う。
- 旅客への案内 → 自動放送装置
- 旅客の降車意思の確認 → メモリーブザー
- 後退(バック)時の安全確認 → バックモニター
車掌が乗務するバスにおいて、警報機のない踏切を通過する際と、車両後退時の誘導は必須義務である(必ず誘導しなければいけない)。
保安要員
仙台市営バスやじょうてつバスにおける狭隘路線通行の安全確保の見地から係員が添乗する路線があるが、これは「保安要員」であり、車掌ではない。しかし、この2社も保安要員添乗以前は車掌として添乗していた。ワンマン運転の認可条件として添乗が求められていた。車掌と異なり、狭隘区間のみ乗務させればいいので、人員の合理化が図れる。
車掌になるには
鉄道、バスともに、設備の近代化が進むと同時に、労働関連法律の改正もあり、車掌の雇用形態も多様化し、契約社員やパートタイマーとして雇用される車掌が多くなっている。また、鉄道会社の非現業正社員(営業・企画などの事務職員、車両保守や保線などの工務職員など)も、OJTおよび職場訓練の一環として、車掌を経験させる場合もある。
鉄道の車掌になるには
鉄道各社により、採用方法は千差万別である。
- 現業採用を希望し、採用された場合(国鉄、JRや多くの民鉄での現業正社員採用など)。
- 一定期間駅員として勤務すると、車掌登用資格が与えられる。
- 社内選考により、車掌としての教育、訓練を受け、車掌訓練生として、指導者とともにOJTに従事。
- 社内試験に合格すると、正式に車掌として従事。
- その後のスキルアップとしては、運転士への挑戦、車掌のままスキルアップ(特急列車などの優等列車には経験を積んだ車掌が乗務する。社内資格で、優等列車の車掌として乗務できる資格試験を実施している会社もある)、駅長、助役など駅の上級職などがある。また、事務職に異動となるケースもある。まれに駅員へ降格する場合もある[1]。
- 事業者や路線によっては、全列車ワンマン運転や無人運転のため、車掌職がない事業者や乗務員部署も存在する。
- 運転士が、車掌として乗務することもある。
- 契約社員の駅員として採用され、その後のステップアップとして車掌に昇進する場合。
- 駅業務を関連会社に委託している場合、車掌登用と同時に、鉄道事業会社の契約社員または正社員として登用される場合もあれば、関連会社の契約社員のまま車掌として乗務する場合もある。
- 更なるステップアップとして、運転士への道が開かれている場合もある。契約社員車掌だった場合、運転士になった時点で正社員として登用される場合が多い。
- 車掌(契約社員)として採用募集を行う場合。
- 採用試験合格後、直ちに車掌としての訓練を受ける。
- ステップアップとして、運転士への道が開かれている場合もある。運転士になった時点で正社員として登用される場合が多い。
- 総合職希望者のOJTとして
- JR四国では、現在新卒正社員の総合職として採用した社員に、車掌を経験させている。
バスの車掌になるには
現在特殊な例を除き、ほとんど募集されていない。バスガイドになるには、該当項目を参照のこと。
路面電車の車掌になるには
当該社局の募集広告などを見つけて応募する。広島電鉄では、適時、アルバイトとして募集されている。
ケーブルカー・ロープウエイの車掌になるには
当該企業等の募集広告などを見つけて応募する。ガイドとして募集されていることも多い。
乗務位置
鉄道の場合、車掌が乗務をする車掌室は通常、列車の最後部の乗務員室で行うが、新幹線・特急列車・JR北海道の快速エアポート・名鉄特急などでは、編成中間部に設けられている車掌室で業務を行っている。この車掌室はグリーン車等の特別席が装備されている車両に入っていることが多い。また特急列車のうち、踊り子・ひたち等をはじめとした車両構造によって通り抜けができない列車については、特急券等のチェックのために別編成にも車掌が乗務している。
ケーブルカーについてはこの例に習わない。車両先頭の乗務員は、運転士ではなく車掌である。運転士は山頂駅にいる。これは機関部が山頂駅にあるためである。
乗務人数
大抵の場合は1列車に対して1人だが、特急や新幹線などの編成が長い列車や乗客の多い列車などでは2人ないし3人といった複数人が乗務し、仕事を分担している。国鉄時代の優等列車では車掌長と専務車掌(と運転車掌)の組み合わせで乗務することが多く、夜行列車では案内や寝台の組み立て・解体を担当する車掌補も乗務していた。
電報略号
電報略号で車掌のことを「レチ」という。これは「列車長」の略である。専務車掌は「カレチ」(リョカクセンムレチの略)。
国鉄時代は他に荷物列車を担当する荷扱い車掌を「ニレチ」、車掌長を「レチチ」(レチチョウまたはチーフの略)と呼んでいた。
車掌の復活
観光案内、レトロ感の演出のため、ワンマン運転が可能な路線にあえて車掌を乗務させている例もある。
- 路面電車の例
- 路線バスの例
- 神戸交通振興が運行しているKOBE CITY LOOP(観光周遊バス)ではレトロ感の演出と観光案内のため車掌が乗務する。運賃収受、1日乗車券の発売のほか、ドア扱いも担当する。
車掌の服装
日本の車掌は、それぞれの会社で定められた制服(一般駅務掛と同じである事が多い)を着用し乗務する。外国のように、私服での乗務例は皆無である。
制服での出勤は、その会社の規定や環境により異なるが、禁止されている場合が多く、出勤場所で私服から着替えることになる場合が多い。それ以前に、自社の電車・バスなどを通勤で利用するときに制服を着用していると、旅客からは勤務中と見なされ、問い合わせをされたりと不利益が多いため、自然とそうなっているとも考えられる。
かつては臙脂色の腕章をしていたが、現在は名札に「車掌」と記述しそれに変えている。名札の他に「運転士」「車掌」と書かれたバッジを別につけている社局もある。これは、以前、某鉄道会社において、動力車操縦免許を持たない車掌に運転士が営業列車を運転させた不祥事が発覚した際、当時の運輸省が、運転士と車掌の明確化を各社に通達したためである。また名札の着用を義務付けている社局がほとんどである。社章も名札同様着用を義務付けていることが多い。
- ネクタイについては、男性については多くの社局で秋から春にかけて着用を義務付けている。制服の一部として指定品がある場合と、デザインは自由である場合がある。
- 車掌の制服は、各鉄道会社で独自性がある。国鉄時代の制服をベースにした社局が多いものの、最近はスーツスタイルが一般的である。
- 制帽は、制服の一部として着用を義務付けている会社が多い。夏用制帽は、頭部の蒸れを防ぐため、通気性をよくしているものが多い。
- 運転士と車掌の服装が違う鉄道会社も多く、普通列車と優等列車で服装が違う場合もある。
出発合図
詳細は「鉄道合図#出発合図」を参照
車掌は列車の出発準備ができたとき、出発させるとき、運転士に出発合図を送ることになっている。
車掌は、原則として、列車最後部がホーム先端を通過するまでは、非常ブレーキスイッチ(一部では車内ブザースイッチ、車内電鈴スイッチ)に手をかけ、いつでも非常ブレーキがかけられるようにしながら、乗務員室の扉についている窓からホームを監視する(京浜急行電鉄の12両編成以外の列車、都営浅草線、南北線など一部では乗務員室の扉を閉めず車掌が半ばホームに身を乗り出した状態で行う)。その後、ホームに異常が無い事を指差確認し、放送などの次の業務に移る。
脚注
- ^ ただし鉄道会社によっては、人事昇進ルートの位置づけから駅係員から車掌・運転士を経験後(あるいは車掌を経験後)再び駅係員へ異動する場合がある。JR東海は「駅還流制度」、JR東日本は「ライフサイクル制度」とそれぞれいわれている。
- ^ 在来線では優等列車乗務だけでなく、間合い乗務で普通列車に白い制服のまま乗務することがある。
著名な人物
- 佐藤良二 - 国鉄バス名金急行線車掌、「太平洋と日本海を桜でつなごう」の桜植樹で知られる。
- 伊藤敏博 - 元国鉄車掌。金沢鉄道管理局内で乗務していた。
- 赤星憲広 - 阪神タイガース入団前の社会人時代、JR東日本で車掌として乗務していた[要出典]。
- 諏訪哲史 - 元名古屋鉄道車掌。
- 坂本衛 - 元国鉄車掌。大阪鉄道管理局管内の車掌区に所属していた。車掌業務に関する著作がいくつかある。
関連項目