フーリガン
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フーリガン (hooligan)は、サッカーの試合会場の内外で暴力的な言動・行動を行う暴徒化した集団のことを指す。
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語源
語源には明確ではないが、いくつかの説がある。
なお、日本で最初にフーリガンの言葉が使われたのは、1956年に発行された週刊新潮4月15日号ではないかといわれている。この中の記事で「ソ連のモスクワで最近、定職に就かない不良少年が増えている、彼らの事をフーリガンと呼ぶ」との記事が載っており、この記事の出どころはイズベスチヤ紙である事が記述されていた。
原因
原因としては単なる酩酊状態、またはその国や地域などが持つ社会問題や試合内容そのものなどに対する不満、一部の者が起こす反社会的行為に対する集団心理的同調などが挙げられ、具体的にフーリガンには大きく3つの種類があるのではないかとされている。
- 試合の観戦ではなく、暴れることそのものが目的となっている者。
- 自分は暴動に加わらないが、騒ぎを煽り立てる者。
- 自分から騒ぎを引き起こすことはないが、他人が騒ぎ始めればその場の空気で加わる者。
特に1と2のタイプは、警察から厳重にマークされており、要注意人物についての情報交換は、国際大会の参加チームなどの状況に応じて各国警察の間で随時広く行われている。
サッカーのサポーターは試合の勝敗に直結して騒ぎを起こすことが多いが、フーリガンの場合は、暴れること自体が目的であり、サッカーの結果や内容とは関係なく、相手サポーターやチームに言いがかりをつけて暴れることがほとんどである。極論すれば、1や2のタイプのフーリガンにとってのサッカーとは、暴れる為の口実、あるいは合図に過ぎない場合も多い。
ただ、これまでは単に試合内容に対する不満や酩酊状態よる器物破損や暴力行為が主だったが、2000年代初頭からは多種多様なヨーロッパの人種形成の根幹、社会構成などを背景とした外国人系や移民系選手などに対するサポーター(ウルトラス)の人種差別的・侮辱的な言動が、次第に目立つようになってきている。
罰則
FIFAなどは、試合自体の禁止や延期処置だけでなく、この様な行為を行ったサポーターに対しては試合会場内への入場禁止処置、更にはチームに対しても罰金や無観客試合、一定期間の国際大会などへの出場禁止といった罰則を科している。
歴史
一般的には「フーリガン」という言葉はイングランドのフーリガンの代名詞となっているが、フーリガンが最初に発生したのはオランダ・ユトレヒトのスタジアムである。全席が移動の容易な立見席だったため、サポーター同士の衝突が頻繁に発生した。1980年代にはドイツ、イングランドからヨーロッパ各地に広がり社会問題となった。もともとフーリガンという言葉は、「街の不良」という意味で使われていた。これが「サッカーの試合で暴徒化する観客」として使われるようになったのは1970年代頃からだといわれている。
1985年5月29日に発生したヘイゼルの悲劇により、フーリガン=イングランドのイメージが定着したとされている。
現在では1982年に新たに建設されたユトレヒトスタジアムがFIFAのモデルとなり、イングランドにおいては会員制のチケット販売や立ち見席の廃止、監視カメラの導入等でドイツやイギリスのスタジアムでもフーリガンはほとんど見られなくなっている。とはいえ、外国人がスタジアムのゴール裏に行ってサッカー観戦することは、安全上好ましいことではない、と堂々と案内されるケース(特にイタリア)もあって注意が必要である。特に1990年代以降はイタリア、フランス、スペインと東ヨーロッパ諸国で深刻化している。
米国
米国ではアメリカンフットボールやバスケットボールの試合会場で時折発生する事がある。
特にNCAAのカレッジフットボールなどでその様な状況に陥りやすく、審判・監督・選手・他の観客への暴力行為、民家・店舗への放火や略奪行為、用具の破壊などを行っている。ただ、こういった一連の行為に対しては主催者側なども警備員の増員や監視カメラによる監視、用具の改良をするなどして対処している。
2003年11月23日 - 25日、ハワイ大学vsシンシナティ大学、ワシントン大学vsワシントン州立大学、クレムソン大学vsサウスカロライナ大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校vsフロリダ州立大学、カリフォルニア大学バークレー校vsスタンフォード大学の各試合会場でゴールポストを破壊するなどした暴動が発生。また、オハイオ州立大学vsミシガン大学では試合後に勝利を祝う学生達が深夜に路上にあふれて暴徒化、駐車中の自動車20台を破壊した[1]。
なお、米国ではこの様な状況を単に“暴徒化”や“暴動”と呼んでおり、“フーリガン”などといったように明確な定義はしていない。
日本
日本国内では「フーリガン」という言葉自体はJリーグが開幕して以降から頻繁に使われる様になった。なお、日本国内では単に「熱狂的な観客が騒動を起こした状態」という広義で扱われている事が多い。
ちなみに、こういった観客によって起こされる一連の騒動は日本国内でも古くから発生しており、特にプロ野球で過去に発生した1950年代の平和台事件や1970年代の遺恨試合騒動などに代表される大規模な騒動は一般的にも広く知られている事例である。
なお、海外と比べると日本国内ではJリーグなどの積極的な取り組み(広報活動など)もあって、現在までに社会的な関心事を呼ぶ程の大規模な事案は発生してはいないものの、小規模な範囲内(小競り合いなど)での事案は毎年数件程度ではあるが発生しているとされている。
Jリーグ
- 柏レイソルvs名古屋グランパスエイト(2005年4月23日、日立柏サッカー場)
柏レイソルサポーターが、アウェイ側の観客席を襲撃して乱闘に発展。両チームのサポーター合わせて18人の負傷者を出し、2人が救急車で病院へ搬送された。
両チームのサポーターが小競り合いとなり、警察官などを含む3人が負傷、その中の1人は10針を縫う大怪我を負う。
試合の前夜に行われた場所取りを行っていた両チームのサポーターがトラブルとなり、横浜F・マリノスサポーター20人が横浜FCサポーター3人に殴る蹴るの暴行を加え、マリノスサポーターグループのリーダーが逮捕された。
- 浦和レッドダイヤモンズvsガンバ大阪(2008年5月17日、埼玉スタジアム2002)
サポーターの一部が暴動へと発展し、埼玉県警が機動隊を出動させて騒動を鎮圧した。なお、警視庁が後日、Jリーグに対して日本国内のプロスポーツ団体では初めてとなる再発防止策の要請をした。
試合終了後、東京VサポーターがFC東京観客席を襲撃。FC東京サポーター2人が負傷し、男性客の手荷物を破損。更に加害者を至近距離から写真を撮った別の男性に対し暴行を加えた。2件共示談を強引に進めただけでなく、東京V公式サイトでしか発表されなかった。
両チームのサポーター同士が殴り合いとなり、2人が負傷。警察官70名が出動して騒動を鎮圧した。また、柏のコーナーキックの際にゴール裏にいた鹿島のサポーターが選手に大きな旗を振るって妨害した。
- 浦和レッドダイヤモンズvs大宮アルディージャ(2009年6月30日、埼玉スタジアム2002)
試合後、サポーターの掲出した横断幕に撮影機材が引っかかり破れたとして、浦和レッズのサポーター10人がテレビ局社員を30分にわたって取り囲み、顔を殴ったり髪を引っ張るなどの暴行を加え、1人が逮捕された。
関連項目
- サッカー文化
- ウルトラス
- ネオナチ
- 応援団
- ローリガン:フーリガンの反対語。主にデンマークの様な紳士的で穏やかなサポーターを指す。
- 暴動
- 平和台事件
- ミルウォールFC:イングランド1部(3部リーグに相当)に所属するチーム。“フーリガンの代名詞”といわれるほどサポーターの気性の激しさで悪名が高い。チーム発足以来、過去には幾度となくサポーターの暴動により逮捕者を出したり、暴動の結果として試合が中止、延期になることがあった。
関連書籍
- ドミニック・ボダン(相田淑子訳)『フーリガンの社会学』 文庫クセジュ 白水社 ISBN 4560508941
脚注
- ^ 「第11回 アメリカン・スポーツ・NOW」 2003/3 sportiva 集英社