ダニ
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ダニ | |||||||||||||||
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サビダニの一種(Aceria anthocoptes) | |||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||
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英名 | |||||||||||||||
Mite | |||||||||||||||
亜目 | |||||||||||||||
ダニ(壁蝨、蜱、蟎)とは、節足動物門鋏角亜門クモ綱ダニ目に属する動物の総称である。世界で約2万種と言われている。比較的小型のものが多く、大きいものでも1cm程度。
非常に多様性に富み、様々な面で人間生活にも関わりがある。動物について吸血するものがイメージとして強いため、転じて人間社会の中で、他人の稼ぎを巻き上げて生活するものなどに「社会のダニ」というなどの使い方をすることがある。
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名称
ダニを意味する漢字の内、中国語ではマダニ類を蜱(pí)、それ以外のケダニ類、コナダニ類などを蟎(mǎn)と区別し、総称として蜱蟎と呼ぶ。
ダニを意味する日本語の方言語彙には、ごさらぎ(和歌山県)、さらげ(熊本県)、しだりめ(東京都八丈島)、たにこ(京都府)、たのほじ(島根県)、たんじろう(新潟県中魚沼郡)、だんにゃま(鹿児島県)、ふつみ(山口県)、やえ(山口県)などがある。ちなみに、愛知県知多郡では、だにがハエの幼虫を意味した。[1]
英語では大型の吸血性のダニであるマダニ類をTick、それを含めてのダニをMiteという。日本語では「ダニ」という単語自体に一般的な不快感が強いが、牧畜の盛んな英語圏では一般的な不快感が強いのは牧場で人畜に大害を与える"Tick"であり、"Mite"にはそれほど一般の不快感は普遍的ではない。マーク・トウェインの小説、『トム・ソーヤの冒険』でも、主人公達が大型の赤い"Mite"(恐らく大型のケダニ類であろう)で学校の授業をサボって遊びに興じ、教師から叱責される様が活写されている。
特徴
クモ綱全体に共通するが、体は頭胸部と腹部に分かれ、頭胸部には4対の歩脚と1対の触肢、口部には鋏角がある。
ダニの場合、頭胸部と腹部は密着しており、腹部は体節に分かれない(フシダニ、ニキビダニは一見体節に見える二次的な環節がある)。触肢は歩脚に近い形で、鋏などにはならない。幼虫は歩脚が3対だが、脱皮成長途中で4対に増える(卵内での発生過程では4対が形成されて、その後第4脚が消失して孵化した幼虫は3対)。腹部の後ろには尾がない。呼吸器は気管を持つが、持たないものもある。
また、ダニは概して小型のものが多く、1mmを超えないものが大部分である。
様々なダニ
ダニには実に多様な生活をする種が含まれ、 ひとくくりに説明するのは難しい。その多様性は、生活環境の範囲で言えば、ダニ目だけで昆虫綱全体に匹敵するほどである。ここでは、人間の生活とのかかわりの中でそれを見てみる。
最も広く知られているのはヒトの血液などの体液を吸う虫としての存在であろう。ヒトの体液を吸うダニには大きく分けて二つの仲間がある。
- イエダニという和名のダニやツツガムシで、小さくて吸血時だけ人の体に来て、すぐに離れる。イエダニの場合は血管を破壊して血液を吸収することができるが、ツツガムシでは哺乳類に寄生する時期が微細な幼虫期に限られ、口器が血管に到達することはできずに組織液を中心に吸収する。
- マダニの仲間で、大きいものは1cm程度になり、人の体に口器を差し込むと、そのままそこに固定され、長期にわたって血を吸い続け、体が数倍にふくらむまでになる。
直接人間に長期寄生するダニとして、他にヒゼンダニという、皮膚に穴を掘って生活するものがあり、これによる感染症を疥癬という。顔面の汗腺にはニキビダニという細長いダニが生活しているが、こちらは何の影響も与えないことが多い。
台所や倉庫では、コナダニの仲間が、小麦粉や砂糖などを餌にして大繁殖をすることがある。
家の中には、埃(ハウスダスト)の中に何種かのダニが生息している。それらは、埃の中の栄養分を食べているので、ふつうに生活している限り気がつかないことが多いが、時にアレルギーを引き起こす元(アレルゲン)になることがある。最近はこれを家ダニと言うことがあるので、イエダニと混同しないよう注意が必要である。
また、植物に寄生するダニも多く、しばしば農業害虫となる。たとえばハダニの仲間は植物の表皮を貫通して口器を組織に挿入し、葉の同化組織などの細胞の原形質を吸い取って生活する。植物の表面にクモのように糸を張り巡らして巣をつくり、天敵の侵入を防いだりするが、ここで子育て行動のような複雑な社会生活を示すものも少なくない。他にフシダニというウジ虫型の微細なダニは表皮細胞から栄養を得て寄生生活を送る。表皮の毛の間などに潜むものも多いが寄生生活を助ける組織の変形を誘導するものも多く、種によっては虫こぶを形成する。なお、これらの草食性のダニ類を餌とし、その天敵として働くダニ類もおり、その一部は生物農薬として用いられる。
それ以外のダニは、野外で自由生活を送る。大きく分けて、昆虫や小動物を食べる捕食性のものと、落葉や土壌や菌類を食べるササラダニのようなものがある。前者には、偶然に人間を刺すものがある。当然、それだけで人間が死ぬわけではないが、伝染病を媒介するなどの被害を与える場合がある。
生息環境
先に述べたように、ダニは様々な生活をするものがあるので、その生息環境は極めて幅広い。地上、土壌中、樹上、他の動植物の体の上、それぞれに様々なダニが生息している。上記のように、人間との関わりから見てもそれは非常に多岐にわたるが、実際には人間とほとんど関わりを持たない種が多数存在し、多くの種が様々な環境でより小さな動物を補食して生活している。
土壌中のササラダニは、落ち葉をかじる分解者である。土壌中では個体数が多く、一説には陸上で最も個体数の多い節足動物であり、土壌動物として重要な位置を占める。
淡水中にはミズダニ類がおり、水中を泳いでミジンコなどを補食する。水底で落ち葉を食うダニもいる。海水中に生息するダニもいるが、そう多くない。ハダニ類は糸を出してタンポポの種子のように空を飛ぶので、空中からも発見される。
人間との関わり
直接に人間を攻撃するダニ、農業害虫、食品(小麦粉等)につくもの、糞などがハウスダストとしてアレルギー性疾患のアレルゲンになりうるものなど、人との関わりは深い。
ツツガムシは、本来はノネズミを攻撃するものだが、まれに人間につくこともあり、その際、ツツガムシ病を媒介する。これ以外にもダニによって媒介される病気がいくつかある(ライム病、回帰熱の一部、ロッキー山紅斑熱など[2][3])他、ニュージーランドでは現地に住む男性の耳の中でダニがおよそ100匹繁殖していたと言う例もある。
吸血性のダニは、家畜にもつく。また、ダニが媒介する家畜の病気も存在する。
利用の面では、ハダニを防除するために、ハダニを攻撃するカブリダニがいるので、これを生物農薬として利用している例などがある。
また、ヨーロッパではチーズダニがチーズの熟成のために利用される。(ミモレット、エダムチーズ等)
ダニ類を駆除するために用いる薬剤を殺ダニ剤という。
分類
ダニ類は種類数も多く、極めて多様なメンバーを含む。そのため、科の数も非常に多い。ここでは、亜目の分類と、代表的な科のみを拾い上げる。
ダニ目(Acarina)
- アシナガダニ亜目
- アシナガダニ科
- トゲダニ亜目(Mesostigmata)
- ユメダニ科
- イトダニ科
- ヤドリダニ科
- カブリダニ科
- ワクモ科:イエダニなど
- 他
- カタダニ亜目
- カタダニ科
- マダニ亜目(Metastigmata)
- ヒメダニ科
- マダニ科:大型で脊椎動物に寄生
- ケダニ亜目(Prostigmata)
- テングダニ科
- ハシリダニ科
- ウシオダニ科:海中性
- ハモリダニ科
- タカラダニ科
- ツツガムシ科(Trombiculidae):ネズミなどから吸血・ツツガムシ病を媒介
- ナミケダニ科(Trombidiidae)
- ヒヤミズダニ科:水中性:以下、いわゆるミズダニ類。
- オオミズダニ科
- オヨギダニ科
- ツメダニ科:他のダニなどを捕食
- ニキビダニ科:汗腺の中に寄生
- ハダニ科:植物の組織を食う・農業害虫
- シラミダニ科:昆虫に外部寄生
- ホコリダニ科
- 他
- ササラダニ亜目(Cryptostigmata):植物遺体などを食う土壌性
- ムカシササラダニ科
- ヒワダニ科
- チョウチンダニ科
- マイコダニ科
- フシイレコダニ科
- ニセイレコダニ科
- ツツハラダニ科
- ヘソイレコダニ科
- オニダニ科
- ツキノワダニ科
- ウズタカダニ科
- ジュズダニモドキ科
- ジュズダニ科
- クモスケダニ科
- ツヤタマゴダニ科
- イブシダニ科
- クワガタダニ科
- ツブダニ科
- ミズノロダニ科:淡水性
- コバネダニ科
- フリソデダニ科
- 他
- コナダニ亜目(Astigmata)
- ニクダニ科(Glycyphagidae)
- コナダニ科(Acaridae):砂糖や乾物に発生する
- チリダニ科(Pyroglyphidae)
- ウモウダニ科(Analgidae)
- ヒゼンダニ科(Sarcoptidae):皮膚に穿孔して寄生
- キノウエコナダニ科(Winterschmidtiidae)
- 他
参考文献
- ^ 尚学図書編、『日本方言大辞典』、小学館、1989年
- ^ Plorde, JJ (1994), “Spirochetes”, in Ryan, KJ et al, Sherris Medical Microbiology, Stamford: Appleton & Lange, pp. 385-400, ISBN 0838585418
- ^ Drew, WL (1994), “Rickettsia, Coxiella, Erlichia, and Rochalimaea”, in Ryan, KJ et al, Sherris Medical Microbiology, Stamford: Appleton & Lange, pp. 431-438, ISBN 0838585418
外部リンク