トゥキディデス
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
トゥキディデス(ギリシャ語:Θουκυδίδης Thoukydídēs, ラテン文字表記:Thukydides/Thucydides, トゥキュディデスとも, 紀元前460年頃 - 紀元前395年)は、古代アテナイの歴史家で、オロロス(Olorus)の子である。
代表作はペロポネソス戦争を実証的な立場から著した『戦史』である。トゥキディデスはこの戦争に将軍として一時参加したが、紀元前422年のトラキア・アンフィポリス近郊での失敗により失脚、20年の追放刑に処された。このためスパルタの支配地にも逗留したことがあり、この経験によって双方を客観的に観察することができたとも言える。
なお今もって理由は不明だが、トゥキュディデス『戦史』の記述は紀元前411年の記述で止まった(それ以降も彼は生き続けたので、少なくとも中断は死に拠るものではない)。後に哲人ソクラテスの弟子クセノポンが、中断部分から筆を起こし紀元前362年までを記録した『ギリシア史』(『ヘレニカ』とも言う、訳書は<西洋古典叢書>)を著し、ペロポネソス戦争の記録を完成させた。
トゥキディデスは先人の歴史家ヘロドトス『歴史<ヒストリア>』と対比される。特徴として同時代の歴史を扱った著作では、特定の国家を贔屓(ひいき)せず中立的な視点から著述していること、政治家・軍人の演説を随所に挿入し歴史上の人物に直接語らせるという手法を取っており、なかには裏付けがあるとは思えない演説や対話も入っていることが挙げられる。演説では、開戦一年目の戦没者合同追悼式に際し、ペリクレスによる演説が最も名高い。
著作訳本
- 抄訳版、中央公論社、『世界の名著5 ヘロドトス トゥキュディデス』
- <西洋古典叢書>京都大学学術出版会、2000年-2003年。
伝記研究
- 田中美知太郎 『ツキュディデスの場合 歴史記述と歴史認識』 筑摩書房、1970年
- 『田中美知太郎全集.増補版 第12巻』 筑摩書房、1988年-柳沼重剛解題
- F.M.コーンフォード 『トゥーキューディデース 神話的歴史家』
- 後半部に、「ツキジデス<戦史>における叙述技法の諸相」
- 桜井万里子 『ヘロドトスとトゥキュディデス 歴史学の始まり<ヒストリア023>』 山川出版社、2002年-小著
- 斎藤忍随 『ギリシア文学散歩』 岩波現代文庫 2007年/岩波書店、1987年
- 柳沼重剛 『地中海世界を彩った人たち 古典に見る人物像』 岩波現代文庫、2007年
- 柳沼重剛 『トゥキュディデスの文体の研究』 岩波書店、2000年-専門書
- 山代宏道編 『危機をめぐる歴史学』 刀水書房 2006年-専門書