スポーツ
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スポーツ(英: sport)とは、人間が考案した施設や技術、ルールに則って営まれる、遊戯・競争・肉体鍛錬の要素を含む身体を使った行為。競技として勝敗や記録を主の目的として行う場合はチャンピオンスポーツ、遊戯的な要素を持つ場合(楽しむ事や体を動かす事を主の目的として行う場合)はレクリエーションスポーツと呼ぶこともある。
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語源
「スポーツ」の語源はラテン語のdeportareにさかのぼるとされ、「ある物を別の場所に運び去る」転じて「憂いを持ち去る」という語感、あるいはportare「荷を担う」の否定形「荷を担わない、働かない」という語感から、古フランス語のdesport「気晴らしをする、遊ぶ、楽しむ」を経て現在のsportに至ったと考えられる。
その原義は現在も保持されているが、意味するものは時代とともに変化している。17世紀 - 18世紀には、sportは新興階級の地主ジェントリの特権的遊びである狐狩り等の狩猟を第一に指した。
しかし19世紀に入ると、キリスト教徒 (muscular Christian) 運動や、運動競技による人格形成論が台頭。sportとは、統括組織(競技連盟など)によって整備されたルールに則って運営され、試合結果を記録として比較し、その更新をよしとする競技を第一に意味するようになった。これが現在も行われている近代スポーツである。
sportとsports
「スポーツ」の英語表記には、集合的な意味で用いるsportと、種目別に表現するような場合に用いるa sport / sportsの二種類がある。また、“sports medicine”や“sports injury”などのように形容詞的に用いる場合には、sportsという語が用いられることが普通である。特に、アメリカでは、集合的な意味で用いる場合にも“sports”という慣用表現が多用される。しかしながら、学会の名称や学術書の表題などのように学術的な意味で集合的に用いる場合には、“North American Society for Sport Management”や“Journal of Sport History”などのように、“s”を付けない表記が大多数を占めている。
日本での「スポーツ」の意味合い
英語のsports(sportの複数形)をその音からカタカナでスポーツと表現される。sportという単語は江戸時代後期の英和辞典に見られるが、スポーツという日本語が定着したのは大正年間のことである。
明治以来の富国強兵、殖産興業の国策を執っていた日本では、遊び戯れるという意味のスポーツが公には肯定されず、国民体育としてスポーツが認識されるようになり、昭和初期には原義とは異なった価値観で発展を遂げた。
また体育(即ち体の発育を促す教育)において、結果的に運動を伴う「スポーツ」が頻繁に用いられる為、体育=スポーツ、又は肉体運動=スポーツという価値観が強く根付いている。
その為、通勤に自転車という交通手段を使用する事をスポーツと称したり、体脂肪の燃焼の為に競技・遊戯性の無い運動(単純なエアロビクスダンスなど)をした事をスポーツと称する場合もみられる(余談だがエアロビクスダンスは正式にルールに則った競技性あるスポーツが存在する)。
従って、マインドスポーツと言われ、欧州では記事が新聞のスポーツ面で扱われるチェスや囲碁が国際スポーツ大会の種目になっていたり、五輪の公式競技採用を目指しているという事実に対しては、日本では違和感が強い。例えば学校のクラブ活動で、「体育部」には囲碁部は入らないが、スポーツ部であれば囲碁部が該当する。逆に体育の授業にはスポーツに該当しないものもあり、体の発育を目的に行う、競技・遊戯性の伴わない鉄棒・床・平均台を用いた運動はスポーツではない。これらをスポーツにした物は体操競技である。
他、ボウリングやカーリング、銃射撃、けん玉、ダーツ、雪合戦や鬼ごっこ、コンピュータゲームなど、れっきとしたスポーツでありながら日本人が想像するスポーツの印象から外れるものが多く存在する。アジアオリンピック評議会がアジア室内競技大会の種目としてコンピュータ・ゲームを「eスポーツ」として採用する事を決定した際には、JOC(日本オリンピック委員会)でさえ「そもそもスポーツと言えるのか」と違和感を示した。
俗に体育会系と称される価値観が、著しくスポーツマンシップを逸脱しているのも、この両者が本来別物であり、発展した背景が異なっている為である。
歴史
詳細は「スポーツの歴史」を参照
19世紀英国で逞しいキリスト教徒 (muscular Christian) 運動や運動競技による人格形成論が台頭すると、スポーツ専門組織によって整備されたルールに則って運営され、試合結果を記録として比較し、その更新をよしとする近代スポーツが誕生した。最初に競技連盟が成立したのは陸上競技であったため、陸上競技はすべての競技スポーツの第一位とされており、陸上競技場はメインスタジアムと呼ばれている。
競技スポーツの分類
スポーツはアマチュア・スポーツとプロフェッショナル・スポーツに大別されるが、各競技については以下のように分類される。スポーツ競技一覧も併せて参照のこと。
人数による分類
- 個人競技
- 団体競技
対人競技と競争
対人競技
相手と直接対戦し、勝敗を決めるスポーツの事。
- 格闘技(柔道、ボクシング、フェンシング、空手、剣道、総合格闘技など)
- 攻守が同時に行われるもの(ラグビー、ハンドボール、テニス、卓球、バドミントン、バスケットボール、バレーボール、サッカー、フットサル、アイスホッケーなど)
- 攻守が分かれているもの(野球、ソフトボール、カバディ、アメリカンフットボール、チェスなど)
競争
相手と同時に対戦して着順で優劣を決めるか、個別に所要時間の記録をとってその結果で優劣を決めるスポーツの事。
採点競技
相手とは同時に対戦はせず、優劣が決まるスポーツの事。
日本のスポーツ育成の現状
国内でのスポーツ活動の流れは多種存在し、一つにくくる事は不可能であるが、全体の流れとして一例を記す。
年齢によるスポーツ環境の流れ
日本では諸外国のように、青年・成人期に至るまでのクラブチームがあまり発展しておらず、幼少期(U-15未満)程度までは習い事や教養の一環でスポーツクラブチームが多く見られるが、高校・大学といった年齢に達すると、多くは学校の部活動が中心の場となり、この年代の選手を学校教育機関が支えている側面が強い。部活を通らずに競技性を高める進路は、テニスやゴルフなど、国際的にジュニアの育成が確立されている分野や、クラブチームが確立している諸外国のチームへの移籍など少数である。
学校卒業後は、成績が優れた選手を企業が実業団チームとして抱え、高いパフォーマンスを発揮する年齢を迎える選手の受け皿となっている。企業によっては長い歴史を誇る名門チームも存在し、日本における高い競技性を保有する重要な位置を占めている。実際オリンピックなどに出場する選手の大半は、この実業団かそれに相当する団体である。会社に就職する形でスポーツを行う者も入れば、契約によってチームに所属する、実質プロフェッショナル活動を行っている選手も存在する。
競技によっては更にプロフェッショナル組織が存在し、代表的なものにNPBやJリーグがある。スポーツを興行として行い、収益を上げ、プレイヤーはそこで報酬をもらって活動を行う。
スポーツの支援の実情
日本にはスポーツ省に該当する公共支援組織が乏しく、政府などがスポーツを保護、育成させる事について、先進国より遅れているのが現状である。そのため、U-15では地域のクラブチーム、U-22では学校教育機関、それ以上は実業団又はプロフェッショナルが結果的に各種年齢の選手を最前線で育成しているに過ぎず、その環境を強力に保護・支援する体制が無い。
その弊害として、重要な競技力を保持している実業団チームが、近年の業績悪化により、廃部が相次いでおり、高校では多忙な教育者がチームのコーチや監督をも務めなくてはならず負担にもなっており、全てのプレイヤーが優れた環境でスポーツを実施出来ているとは言いがたい。
また優秀な成績を修めた選手が、有力な国際試合に出場出来るようになったとしても、その遠征費用を調達しなければならず、通常は各種スポーツ協会が有力選手を強化指定選手とし、遠征費用などの負担を行う事で、優れた競技者が資金面の問題でそれ以上のステップアップを果たす事が出来ない事態を回避するよう努めているが、当然その団体も、その資金を調達する必要があり、大会を実施する為の費用など、膨大な資金を得るため、企業からのスポンサー支援の獲得などに苦心しているのが実情である。
当然だが、このような強力な資金力を持つ協会が存在しない種目を行う選手は、最悪全額自腹で大会に挑む事になる。事実、トリノ五輪で予選を戦い、最後まで出場権を争った女子アイスホッケー選手は、大会後に遠征費用の請求書を渡されている。
競技によっては、「競技場」そのものが姿を消し、競技を行う事すら出来ない危機的な状態に陥る事もある。特に冬季スポーツに顕著であり、相次ぐアイスリンクの閉鎖に伴い、トリノオリンピックで唯一の金メダルを獲得した荒川静香選手が、優勝後の会見で子供達の育成の為に環境を整える事を訴えた事は印象的である。
このように日本国のスポーツ政策においては、後進国といわざるを得ない。国民の意識に、スポーツを発展させる事に「税金を使用する」事に理解が得られていない可能性もある。2009年に民主党が政権をとって行なわれた行政刷新会議では、スポーツへの支援を削減するような結論さえ出され、JOCを始めとする各種スポーツ団体やメダリストが抗議会見を行った。
国際競技が抱える問題
スポーツの国際大会が盛んに開催されるようになり、スポーツが政治的・経済的な問題となることもしばしば見られる。オリンピックなど、巨大なスポーツイベントでは、開催地誘致に巨額の資金が使われ、委員に賄賂が贈られることも数多い。開催国と政治的に摩擦のある国が参加をボイコットするなど政治的な駆け引き・アピールに使われたり、テロの標的になることもある。また、競技のルールをある特定の国に不利になるようにしているのでないかといった疑惑もある[1]。
関連書籍
- 寒川恒夫 編 『スポーツ文化論』体育の科学選書 ISBN 4-7644-1536-4
- 井上俊、亀山佳明 編 『スポーツ文化を学ぶ人のために』世界思想社 ISBN 4-7907-0771-7
- 玉木正之 『スポーツとは何か』講談社現代新書 講談社 ISBN 4-06-149454-6
- 玉木正之 『スポーツ解体新書』日本放送出版協会 ISBN 4-14-080749-0
- 多木浩二 『スポーツを考える』身体・資本・ナショナリズム ちくま新書 筑摩書房 ISBN 4-480-05647-5
- 友添秀則、近藤良享 『スポーツ倫理を問う』大修館書店 ISBN 4-469-26453-9
- 生島淳 『スポーツルールはなぜ不公平か』新潮選書 新潮社 ISBN 4-10-603528-6
- 西山哲郎 『近代スポーツ文化とはなにか』世界思想社 ISBN 4-7907-1189-7
脚注
- ^ スキー・シンクロナイズドスイミング・フィギュアスケート・水泳などは日本が不利になるようにルール改正されているといわれたことがある。[誰?]
関連項目
外部リンク
- 日本体育協会 (日本語)
- 日本スポーツ振興センター (日本語)
- スポーツWEBマガジン『CHAP』